■仕事とは、一言で言えば、「社会において自分の能力を発揮し、社会をより快適にすること」です。どんな仕事も、モノやサービスを通して社会に関わり、より多くの人の生活を快適にし、幸せにするためにあります。製造業は「もの作り」ですから、ものを通じて社会に関わり多くの人に貢献します。
ここでは、製造業のやりがいや魅力について詳しく解説します。
■製造業のやりがい
製造業のやりがいは何かと言うと、
「製造業のやりがいは、改善にある」ということなのです。これは製造業の全ての業種に当てはまります。
では、なぜ製造業のやりがいが改善にあるのでしょうか。
○改善を通じて仕事への取り組み姿勢・理解が深まっていく
製造業でよく「QCD」という言葉が使われます。製造される製品のQuality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)の頭文字を取ったもので、これは全ての製造業が取り組む課題です。
改善活動はQCDを高める活動でもあります。どんな業種でも必ずライバル会社は存在しますから、ある製品をいつまでも同じ品質・同じコスト・同じ納期で製造していては、ライバル会社にすぐ抜かれてしまいます。少しでも優れたものを、少しでも安く、少しでも早く製造するために、工場長や管理職は日々頭を悩ませています。管理者の勤務時間のかなりの部分はこうした改善に目が向けられています。
管理者のみならず、従業員一人ひとりは、それぞれ与えられた職責において取り組むべき改善テーマがあります。安全や衛生、工程の省略や簡素化、手順書の作成などにも改善テーマはあります。
テーマを決め、それに取り組み解決する過程で頭をひねり知恵を出すことで、仕事への理解が深まっていきます。
○壁を乗り越えるときに大きく成長できる
かつて一世を風靡した日本製の電気製品やレーシングエンジンなど、その開発ストーリーの本を読んだりテレビ番組を見たりすることは、実に興味深く面白いものです。
どのストーリーにおいても、技術者は大変な壁に突き当たります。どうやっても突破できそうにない、ライバルは着々と開発を進めているらしい、期限は迫っている・・・そんな極限の状況下で、夢に出るほど悩みぬいて沈思黙考したある日、ひとつのアイデアが浮かび、それによって劇的に壁を乗り越えることができる・・・こうしたエピソードは、ほとんどのストーリーに出てきます。
本やテレビ特有の脚色を抜きにしても、ここには壁を乗り越えて成功するストーリーがあり、感動します。そしてこうした体験によって、人は大きく成長します。成功体験や達成感がモチベーションアップに大きく働くからです。
改善の課程で知恵を絞れば、自分が関わっている製品が、全工程の中でどんな意味を持つのか俯瞰的視野も備わってくるでしょう。
小中学生のとき、分数の割り算や連立方程式が苦手だった方も多いことと思います。しかし大人になると、《割り算とは逆数をかけること》、《連立方程式の解は、座標上で2本の直線が交わる点の座標である》ことが自然と理解できます。俯瞰的視野を持つとは、そういうことです。
○提案制度のインセンティブ
製造業の企業には、必ず「改善提案制度」があり、インセンティブと共に制度として取り入れられています。改善の金額的効果が大きければインセンティブも高額となり、モチベーションアップへの一つの動機付けになっています。
改善への取り組み姿勢、提案件数などは人事評価制度ともリンクしています。改善をすれば仕事が楽しくなるうえ、給料も増える。こんないいことはありません。大いに活用してステップアップしましょう。
○専門的知識・スキルが身につく
製造業に携わっていると、自分が扱う製品の専門的知識が身についてきます。例えば素材への知識、電気や化学などの専門知識、法律などです。
各種資格を取得できるのも魅力です。職種によっては、国家資格を取得したり技能講習を受講したりしないと行えないものもあります。例えば公害防止管理者、特定化学物質作業主任者、クレーン免許、フォークリフト技能講習などです。
業務上必要な資格などは企業負担で取得できることが多く、自分のスキルアップになるうえ転職にも役立ちます。
○自分が携わった製品を店頭で見ることができる
一つの製品には、製造・組立・検査・梱包などいくつもの工程があります。工程のうち一人が関与する部分はごくわずかですが、それが店頭に並び多くの人の目に触れる環境にあれば、一つの喜びとなります。
サービス業などでは、お客様の笑顔やお礼の言葉によって、やりがいを感じる場面があるでしょう。製造業にそんな場面はありません。しかし、モノに直接関わり、モノ自体の価値を上げていく過程にこそ製造業のやりがいや醍醐味があると言えるのです。
■製造業の特徴
次に、製造業の特徴について解説します。
○仕事内容が経験や学歴にあまり左右されない
製造業では、マニュアルや手順書に従って機械を動かします。もちろんそこに「カン」や経験、センスは必要ですが、営業職やサービス業と比べると、持って生まれた特定の才能が必要とされることは少ないです。
したがって求人を見ても、「未経験者優遇」「学歴不問」などの言葉が多いのも製造業の特徴です。
○就業時間がはっきりしている
製造業では、工場における就業時刻にしたがって作業が行われます。始業や終業にはチャイムが鳴り、自分が何時から何時まで働けばいいかがはっきりしています。この点は、あらかじめ一定時間働いたものとみなす「裁量労働制」とは全く異なります。
時間から時間まで、自分が担当する仕事に専念すればいいのであり、終業のチャイムが鳴った直後に機械を止めてもかまいません。
時間から時間まで精一杯働けば、誰にも文句を言われない。これは製造業のやりがいの一つです。
○仕事の環境が安定している
製造業の舞台となるのは、工場です。現代において工場での仕事は細分化されており、日によって職場や仕事内容が変わるということはほとんどありません。毎日同じ時刻に同じ場所で働くということは、営業や運送業と比べて仕事の環境が一定していると言えます。
○福利厚生が充実している
多くの場合、工場では50人、100人という単位で人が働いています。こうした従業員数は小売業や営業ではあまり見かけません。従業員が多くなると、食堂やロッカールームなどの福利厚生施設が独立し充実してきます。工場によっては、シャワー施設や風呂があることも多いです。
大規模な工場になるとメニューの種類も増え、一日2回や3回食事できるところもあります。大きい工場のスケールメリットの一つです。
■製造業で働くメリット
○プライベートの計画を立てやすい
製造業では、1年単位で就業カレンダーが決まっており、時に長期休暇があります。なぜかと言うと、ゴールデンウィークやお盆、年末年始など連休を作れるところで、工場の大規模な改修やメンテナンスを行う必要があるためです。例えば工場に金属を溶かす炉があれば、冷却に丸一日かかるということも珍しくありません。
これは従業員にとっては、長期休暇でもあります。製造業では、8連休や10連休など、他の業種ではありえない長期休暇が無理なく取れてしまいます。長期休暇ではプライベートで羽根を伸ばし、休み明けにはまた夢中で働く。
生活にこんなメリハリがつけられるのも、製造業のやりがい、働きがいの一つです。
■製造業で大変なところ
○残業が多い
工場で製造するものは、様々な要因で生産量が変化します。その要素としては、国や自治体の公共事業、季節的要因、流行などがあります。
しかし、製造量が増えるたびに従業員を採用していては、採用や教育に大きなコストがかかってしまいます。それを防ぐため、企業は製造量が増えたときに残業や休日出勤でカバーします。
結果的に、上にあげた要因によって残業や休日出勤が発生することがあります。
しかし、営業職などと違い、働けば働いただけ収入が増えることは、製造業で働くやりがいでもあります。
○油などで汚れる仕事が多い
ゴム生地製造の工程では、素練り、配合、成形、加硫などの工程があり、どの工程においても専門の機械を動かします。
機械には動く部分がありますからオイルを使用しますし、始業前や定期の点検が必要です。部品を交換するときもあるでしょう。また職場環境が暑熱であったり粉じんが飛んでいたりすることもあります。
必然的に、製造業においては作業着や手指が汚れることが多いです。もちろん手袋はしますが、完全ではありません。前章で「風呂」について記述しましたが、風呂があるのは他業種に比べて汚れやすいという理由によります。
○労災に注意
機械は、大変な力を持っています。小型のドリルでも服を巻き込んだら大ごとになりますから、工場にある大型機械の力は、「推して知るべし」と言えます。
工場や建設現場には必ず「安全第一」という看板があります。これは、20世紀初頭、アメリカの企業「USスチール」が提唱したもので、以前の「生産第一」だった発想を180度切り替えて安全を重視したところ、生産量も品質もよくなったというエピソードがあります。
しかし、製造業において労災が発生する可能性はゼロではありません。
厚生労働省の統計によれば、令和4年の労災災害死亡者数は774人で、多い順に言うと建設業が281人、第三次産業全体で198人、製造業で140人となっています。
参照元:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/dl/22-16.pdf
労災を完全に撲滅することは非常に難しく、官民一体となった取り組みが継続されています。
■製造業でのスキルアップについて
製造業に携わっていくと、機械オペレーターとしてスキルアップができます。製造用機械は業種や企業によってさまざまな種類がありますが、基本を身につけると応用がききます。
また、クレーン操作、玉掛作業、フォークリフト運転などは幅広い業種で役に立ちます。
設備のメンテナンスを専門にしてきた場合は、公益社団法人日本プラントメンテナンス協会が実施する《機械保全技能士検定》に合格することで高度なスキルをアピールできます。
このように、製造業に従事した経験は必ず役に立ちます。可能であればさまざまな職種にチャレンジし、スキルの幅を広げることをおすすめします。そうすれば、仕事のやりがいや醍醐味が増してくることは間違いありません。
■まとめ
あらゆる業種において、「もの作り」は、産業の基本であると言えます。
製造業では、機械を操作することによって自らの手でモノを製造することができます。それが形となって多くの人の役に立つことは、大きな喜びです。
仕事内容が経験や学歴にあまり左右されない、プライベートの時間が確保しやすいなど、製造業で働く魅力は多くあります。
「日本のもの作りの一端を担っている」
そんな気持ちで、プライドをもって仕事に向き合いたいものですね。