製造業とメーカーの違い

製造業とメーカーの違い

■「もの作り」という言葉で表されるように、ものを製造することは産業、特に第二次産業における大きな柱であり、国内外で多くの雇用を生み出している基幹となる産業です。
しかし単に製造業と言っても、ひとくくりに捉えることは困難です。鉄鋼やコンクリート業などの重厚長大の素材メーカーもあれば、様々な素材を組み合わせて作り出す自動車など組立加工メーカーもあります。
今回は、一般的に言う製造業と、「メーカー」と呼ばれる大規模製造業について考察してみます。

■製造業とは
○中小企業と大企業
中小企業庁が定める定義では、製造業における中小企業は「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人」
です。
同庁の調査によれば、日本の企業数において中小企業が占める割合は99.7%です。大企業は0.3%しかありません。産業別で見ると全企業数のうち製造業は15.4%で、中小企業と大企業の割合は99.5%および0.5%で、全産業の割合と大差ありません。
大企業は従業員数が多くなりますので、従業員数では日本全体の約70%の労働者が中小企業で働いています。
次に製造業を業種で分類してみると、大まかに3つに分けられます。

○素材メーカー
製品の素材を製造するメーカーで、鉄鋼、非鉄金属、セメント、繊維、ガラス、ゴム、紙などを製造します。
製造される素材全てと言っていいほど、製造のために大規模な設備とエネルギーを必要とします。例えば鉄鋼なら、企業は港湾に面しており、鉄鉱石やコークスを積んだ船舶が接岸して荷下ろしをします。そして巨大な高炉をはじめとした大規模な製造設備が必要です。多くの電力も必要とするため、専用の発電所が隣接することもあります。
これら製品を一般の消費者が購入することはほとんどなく、製造された素材は加工企業が購入し、別の形の製品となります。品質が完成品のクオリティに強く関係するため、高品質な素材が求められます。

○部品加工メーカー
部品加工メーカーは、素材メーカーから購入した素材をもとに部品を製造するメーカーです。
例えば自動車で言えば、高張力鋼板からフレームやボディを製造します。アルミブロックは熱間や冷間鍛造をしてエンジンのシリンダーやクランクケースになります。
ピストン、バルブ、コンロッドなどエンジン内部で高速運動をする部品は、車種ごとの専用品を精密に研磨して完成品とします。
自動車という観点で言えば、プラスチックはヘッドライトやテールランプに、ゴムはタイヤに、布や革はシートや内装など、多種多様な加工品が組み合わさって自動車というひとつの製品となります。
部品加工メーカーの取引先は、素材メーカーと次に述べる製品加工メーカーとなります。やや単純な図式ですが、素材メーカーから素材を購入し、自社で加工し、製品加工メーカーに納品するという流れです。

○製品加工メーカー
製品加工メーカーは、素材や部品加工メーカーから購入した部品を使い、製品を製造するメーカーです。組立メーカーと言われる場合もあります。
自動車で言えば、エンジンパーツを組み合わせてエンジンを作り、シャシーに載せ、タイヤ、サスペンション、内装、ガラス等を組み合わせて完成したいわば複合体が、1台の自動車です。
ほかに代表的な製品加工メーカーは、電子機器、家電、建築、機械、食品、化粧品などです。
大手の化学メーカーや製薬メーカーでは、素材製造から部品加工、製品加工までを一社で行っている企業もあります。総合メーカーとも呼ばれています。

■メーカーと製造業
○メーカーと企業規模
上にあげた3タイプのメーカーは、企業規模とも密接に関わっています。
素材メーカーと製品加工メーカーは、業態の関係から、必然的に企業規模が大きくなります。企業規模が大きいとは具体的には、従業員数が多い、敷地が広い、大規模設備があることです。
これらは一般的に「メーカー」と呼ばれます。素材メーカーなら「鉄鋼メーカー」「製紙メーカー」で、製品加工メーカーなら「自動車メーカー」「食品メーカー」「家電メーカー」などです。

○メーカーと製造業の違い
もう一つの部品加工メーカーは、従業員数も敷地面積もまちまちです。小さいところでは数人、数十人という工場もありますし、大きなところでは数百人規模となります。これらの工場が「メーカー」と呼ばれない理由は、製造した製品が直接消費者の手に渡ることがないからである点が大きいです。
つまりメーカーと製造業の違いには主に2つあり、1つは、企業規模が大きいかどうかです。規模の大きい製造業はメーカーと呼ばれ、鉄鋼メーカーや製紙メーカーなどがこれにあたります。そしてもう1つは、消費者の手に直接渡る製品を作っているかどうかです。自動車、家電、化粧品、食品などのメーカーです。
つまり部品加工メーカーが一般的に「メーカー」と呼ばれることがなくても、それは単に製造している製品および取引先の違いでしかないということです。大きくない企業規模で自動車エンジンのバルブやピストンを一日あたり何百、何千と作っていても、一般の消費者が購入することはまずありません。一般的な意味での「メーカー」というよりは、「○○工場」と認識されることが多いでしょう。

■メーカーと製造業に求められる適性
次に、就職先としてのメーカーと製造業について、適性を考えてみます。【メーカー=大企業】、【製造業=中小企業】と考えていただいてもかまいません。

○メーカー
メーカーで働く場合は、大きな組織の一員となって働くことが多くなります。ただしメーカーによって仕事に対する適性はやや異なってきます。まずは業界ごとの適性から解説します。

・素材メーカー
素材メーカーの仕事はダイナミックです。鉄鋼なら、鉄鉱石とコークスを高炉に入れ、火花の散る転炉作業など、高温・高重量の仕事が多いです。しかし仕事自体は大ざっぱというわけではなく、鉄鋼製品ごとに成分の配合を変えるなどの作業もあります。体力と繊細さが同時に求められる仕事です。

・自動車メーカー
自動車が好きな人、そしてものづくりが好きな人、チームワークで協力して働くことに適性がある人に向いています。
自動車製造は流れ作業であることが多く、またモデルチェンジや新車開発においては営業部や技術部からの要望を取り入れて1台の車にどうパッケージするかなど、チームワークを要求される場面が多くなります。

・食品メーカー
食べるのが好きな人に向いています。食べること全般に興味があることは、商品の企画やマーケティング活動に欠かせない素質です。また、食品メーカーは品質不良を起こしてしまうと、消費者からの信頼が一瞬で崩れてしまいます。そのため、食品の安全を常に考えた誠実な行動が求められます。

・電機メーカー
手先が器用な方、一つの仕事に没頭できる方に向いています。電機製品の開発は細かい作業が求められますし、年々ハイテク化する製品の開発には、一つのことに没頭できる集中力が必要とされる場面が増えてきます。

○製造業
「鶏口となるも牛後となるなかれ」ということわざがあります。鶏口とはニワトリの口、牛後とは牛の尻尾で、『大きい組織の末端にいるよりは、小さい組織でも先端にいたほうがいい』という意味です。
製造業に向いているのは、この言葉が意味するように、大きなメーカーで1つの歯車となるよりは、小さい工場でも先頭で指揮する立場にいたいという方です。
すると、先頭に立って指揮監督する立場では、幅広い知識や技能が必要とされます。

・製造業に必要な知識・技能
大手メーカーと違って中小の製造業では、製造のみならず製造の計画や企画、工程管理、納期管理、品質管理などを兼任しなければならない場面が増えてきます。さらには、労務管理の知識も必要とされるでしょう。
つまり中小企業の製造業においては、特定の分野を極めるスペシャリストというよりは、幅広いジェネラリストであることが求められます。

■大手メーカーと中小製造業のどちらを選ぶか

○大手メーカーに向いている人
大手メーカーでの仕事は、中小企業での仕事に比べて単純作業や流れ作業が多くなります。こうした作業が苦にならない方は、大手メーカーに向いています。
また大手メーカーは給与レベルが高く、福利厚生が充実していることもメリットです。仕事は仕事として働き、余暇も楽しみたいという方は大手メーカーに向いていると言えます。

○中小製造業に向いている人
中小での製造業は、幅広い知識や技能をもって、臨機応変に仕事に臨むことが求められます。
「鶏口」として全体を引っ張っていくリーダーシップから、現場をよりよく改善していくアイデアを出していくバイタリティなど、幅広い能力が必要となります。

○ベンチャービジネスに潜む可能性
ベンチャービジネスとは、革新的な技術・製品・サービスを開発している企業、新しいイノベーションを生み出す企業です。設立年数は若く、リスクを抱える一方で将来の成長が期待できる企業です。
現代のIT社会を支える重要企業のなかでも、かつてベンチャーと呼ばれた企業もあります。
つまり大手メーカーは昔から大手だったわけではなく、将来も大手であるとは限りません。中小の製造業においても同じことが言えるでしょう。

■まとめ
大手メーカーと中小の製造業の違いについて解説しました。
ここで大切なことは、どちらが優れているということはなく、それぞれの特徴、メリット、デメリットがあるということです。どちらを選ぶか、その基準は自らの適性と感性ということになります。
ただし、大手メーカーも中小の製造業も、共に日本の第二次産業を支える「ものづくり」の最先端です。「ものづくり」に楽しさを見いだす方がこれら製造業で働き、喜びを感じることができれば、個人にとっても社会にとっても、最良のあり方であると言えるでしょう