日本の製造業がかかえる本質的課題と、その解決方法について解説します

日本の製造業がかかえる本質的課題と、その解決方法について解説します

戦後の日本の歴史を振り返ったとき、経済面で最も顕著な変化があったのは、1960年代の驚異的な高度経済成長です。その原動力となったのは日本人の勤勉さや手先の器用と言われました。製造業を中心に発展した産業は資源の乏しさを補い、国家の発展に寄与しました。代表的なのは、家電や電子製品です。自動車もこの時期に大きく成長しました。

しかし、それから50年以上が経過した今、日本の家電、とりわけ電子産業はどうでしょう。見る影もなく凋落してしまいました。

今回は、かつて「電子立国」と言われた日本の電機産業の推移などから、日本の製造業がかかえる課題や問題点、およびその解決方法について解説します。

■日本の製造業の問題点

経済産業省が発表している「2023年ものづくり白書(※)」によれば、GDP(国内総生産)の2割を製造業が占めています。

しかし過去数年の実質GDP成長率を見ると、2020年は年率で前期比マイナス28.2%と、リーマンショック後の2009年に記録したマイナス17.9%を上回る落ち込みとなってしまいました。これは新型コロナウイルス対策として人流などを抑制した影響です。その他の点も含めて日本の製造業の現状を見てみましょう。

  • https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/pdf/honbun_1_1_1.pdf

○製造業の海外移転

日本の電機メーカーは1970年代から海外、特に中国や韓国に移転を始めました。目的は安い労働力によるコストダウンですが、長期的には現地への技術流出を招き、安い労働力から結果的に競争力で負けるという事態に陥っています。

1985年のプラザ合意による円高不況も拍車をかけました。海外進出はさらに進んだものの、国内産業は空洞化、日本が世界に先がけて開発したデジタルカメラ、カーナビ、インターネットに接続できる携帯電話、カメラ機能つき携帯電話などは見る影もなくなりました。これがすなわち、国際競争力の低下です。

○技術革新とデジタル化の遅れ

電子産業を牽引した日本ですが、残念なことに、現在日本のデジタル化は遅れています。役所では未だにファックスが業務連絡の中心になっています(証憑を文書で残すという意味もありますが)。そして中小企業においてもデジタル化や技術革新の進展は諸外国から比べて遅れています。IoTやAIなどの最新技術の導入も進んでおらず、国際競争力の低下を招いています。

○新型コロナウイルスによる影響

2019年12月頃から世界的に蔓延した新型コロナウイルスによって、各国の産業は縮小を余儀なくされました。最も影響を受けたのは観光業ですが、製造業も例外ではありません。2023年を過ぎても、事業縮小や関連会社の倒産などから脱出しきれていない企業も少なくありません。

○サプライチェーンのリスク

物流のリスクは、天災などから影響を受けやすいことです。2024年だけでも、1月の能登半島地震、4月の台湾地震が起きています。台湾は半導体産業が盛んですから、世界的に半導体不足が懸念されました。さらに世界では、紛争が起きている地域もあります。

天災・紛争によって、原材料やエネルギーの調達はいとも簡単に影響を受けてしまいます。

○高齢化と人口減少からくる労働力不足

日本社会は急速に高齢化しており、そこから多くの問題が発生しています。産業全般における就労人口の高齢化、若年労働力の不足、伝統技能継承者の激減、社会保険料の増加、社会の活力の低下などです。さらに少子化は人口減少をもたらしています。これらのことから生じる慢性的な人手不足が製造業の今後に影を落としています。

■日本における製造業の重要性

こうした問題点はありますが、「ものづくり」すなわち製造業は、日本という国家にとって非常に重要な位置を占めます。以下はその主なポイントです。

○経済への貢献

製造業の生産額は日本のGDPの約20%を占めています。とりわけ自動車、電子機器、機械などの産業は国内外で大きな売り上げを誇ります。

○輸出と貿易

日本の製造業は、国際市場での高い競争力を持ち、高品質な製品を世界中に輸出しています。これは日本の貿易収支の大きな部分を占め、国際的な経済地位の維持に寄与しています。どんな分野においても、「Made in Japan」は優れたブランドなのです。

○地域の雇用を生み出す

製造業は規模が大きければ大きいほど、地域への雇用を産み、地域経済を支えています。特に地方における工場の存在は大きく、製造業が主要な雇用の場となっています。

○技術革新と研究開発

製造業は技術革新の重要な源泉です。日本企業は長年にわたり、ロボティクス、エレクトロニクス、バイオテクノロジーなどの分野で先進的な技術を開発し、これにより世界的な技術競争力を保持しています。

■日本の製造業における課題

日本の製造業における課題は、先にあげた問題点に内包されています。その問題点のなかで何を優先して解決すべきかが、製造業における課題です。

日本の製造業がかかえる課題と答えをまとめてみると、次のようになります。

・製造業の海外移転 → 可能な限り国内での製造業の復活を図る

・技術革新とデジタル化の遅れ → 官民一体となったデジタル化への取り組み

・新型コロナウイルスからの脱却 → 誤情報に振り回されない判断力の獲得

・サプライチェーンのリスク → 製造業全般におけるナショナリズムの復興

・高齢化と人口減少からくる労働力不足 → 日本社会独自の生産性向上への取り組み

これらを総括した言葉が、「経済安全保障」です。アメリカ合衆国の前トランプ大統領が「Make America Great Again !」と言っのは国防を含めた意味ですが、広義ではサプライチェーンとも深く関連します。

一番いい例は、食糧自給率です。コストを求めて食料の多くを海外に求めてしまうと、有事や紛争が起きたときに国内の食糧事情は壊滅的な打撃を受けてしまいます。そうならないために、国民が得る最低限のカロリーは国内で調達しなければなりません。「経済安全保障」と「食料安全保障」は同列で語るべき重要事項です。

■製造業の課題を解決する対策

では、製造業において日本がかかえる課題を解決する対策は何でしょうか。次に解説します。

○労働力の不足

製造業では、高齢化による労働力不足や、若い世代の製造業への関心の低下が問題となっています。

その対策は、自動化とロボティクス(ロボットの導入)により、労働力不足を補うことです。作業環境を改善し、若い世代や女性労働者が働きやすい環境を整えることも必要でしょう。

○生産コストの増加

近年の「値上げラッシュ」でも分かるように、原材料費、エネルギーコスト等の上昇により、製造コストが上昇しています。

そのための対策は、効率的な生産プロセスの導入です。例えばLean製造やSix Sigmaなどの手法を用いて、生産効率を高めることです。エネルギー効率の良い機器の導入やエネルギー管理システムの導入により、エネルギーコストを削減することも必要です。

経済安全保障に直接かかわるサプライチェーンの最適化については、原材料の調達先を多様化し、コストの抑制と供給リスクの分散を図らねばなりません。

○技術の進歩とイノベーションの遅れ

未だ日本においては、急速に進化する技術に追いつけず、競争力を失うリスクが存在しています。

そのためには、新しい技術や新製品の開発に積極的に投資することが求められます。

外部の技術や知識を活用するため、企業間連携や大学・研究機関との協力を強化する「オープンイノベーション」、IoT、AI、ビッグデータ解析などのデジタル技術を活用し、生産プロセスや品質管理を高度化することも必要です。

○品質管理と製品の信頼性

安定した品質は、製造業における基本的要素です。顧客からの信頼を失わないためには、:ISO 9001など品質管理システムを導入し、品質管理を徹底することです。あるいは、生産プロセスをリアルタイムでモニタリングし、問題発生時に迅速に対応できる「リアルタイムモニタリング」も有効です。

○環境規制と持続可能性

生産活動と同様に大切なのは、環境保全です。

そのためには、製造プロセスにおける廃棄物や排出ガスの削減、再生可能エネルギーの利用、などが求められます。

ただしここで注意すべきことは、過度にエコロジーを求めることは、時に本末転倒となることです。

例えば、太陽光発電です。山林を切り開き、樹木を伐採し、太陽光パネルを敷き詰めることが本当にエコなのかどうか、一度踏みとどまって考える必要があります。太陽光で発電された電力は変動幅が大きいため、製造業のためのメイン電源とはなり得ません。雨や雪、曇天では発電効率が落ちるからです。

「脱炭素」という試みも、本当に実現できるのか検証すべきでしょう。再生可能エネルギー、脱炭素などの試みは、政府が行う政策も含めて実効性が問われています。

■まとめ

日本の製造業を復活し発展させていくためには、安定したエネルギー供給は必要不可欠です。再生可能エネルギー、石炭、原子力などをミックスしたベストバランスのエネルギーが災害や有事に耐えることのできるエネルギー供給です。

また日本の石炭火力発電は、二酸化炭素の排出量が極めて少なく、国際的に誇れる技術を持っています。政治家がそれを国際社会に正しく発信することは非常に大切です。それは日本の今後の発電のあり方を左右するほどの大きな問題だからです。

最後に、世界のトレンドについてお話します。21世紀になって世界的に難民や移民が増えた結果、各国政府は自国第一と考える方向に傾いています。それはアメリカだけではなく、アルゼンチン、ドイツ、イギリスでも起きています。自国の産業を守り発展させていくためには、政治の軸足がしっかり地についたうえで、国の舵取りをどうするかを考えなければなりません。

「人手がたりないなら、移民を増やせばいい」というのは、安易すぎる考えです。生活習慣、文化、食生活などが全く違う異国民を増やすことについては、極めて慎重にならねばなりません。人口減少、少子化対策などへ政治がどう対応するか、今の日本には、国家百年の試練が訪れています。