【技能習得手当】制度をご存じでしょうか。これは、雇用保険の受給資格を持った方を対象とし、ハローワークなどの指示で【公共職業訓練】などを受講した方に支給される手当です。手当を受給しながら資格を取得でき、転職にも有利になるという大変有益な制度です。
技能習得手当とは雇用保険から支給される手当であって、企業が独自の規程によって給与の一部として支給する《技能手当》や《資格手当》とは全く異なります。
今回は、新しい資格や技能を取得できる【公共職業訓練】と、転職にも有利な【技能習得手当】について詳しく解説します。
■公共職業訓練とは
技能習得手当について解説するには、まず公共職業訓練から解説しなければなりません。
公共職業訓練とは、就職に必要な技能や知識を取得することを目的として、国や都道府県が実施する職業訓練です。
○対象者
公共職業訓練を受講するには、次の要件を満たした方が対象となります。
・失業手当を受給している求職者
・ハローワークで求職の申し込みをしている
・受講開始日から過去1年以内に公共職業訓練を受講していない
○訓練期間
概ね3カ月〜2年
○費用
受講料は無料、テキスト代・教材費等は数千円~1万円程度
○講座の種類・内容
コースの種類、名称、内容は都道府県や管轄のハローワークによって異なりますが、内容は多岐に渡っています。
パソコン、経理、簿記などの事務系講座から、CAD、電気、溶接、アロマテラピー、ウエディングプランナーなど
次に、一部の具体例をあげてみます。
・Webデザインの職業訓練コース
・プログラミングの職業訓練コース
・医療事務関連の職業訓練コース
・パソコンスキルの職業訓練コース
・介護関連の職業訓練コース
・ビル設備関連の職業訓練コース
・電気工事の職業訓練コース
・造園業コース
・公園などの維持管理業コース
これらコースを受講したあとなら、公的な資格取得も有利になります。
例えば《Webデザインの職業訓練コース》であれば、
・Webクリエイター能力認定試験エキスパート
・Illustratorクリエイター能力認定試験エキスパート
・Photoshopクリエイター能力認定試験エキスパート
など。
造園業コースなら、
・造園技能士
・園芸装飾技能士
などの資格にチャレンジする近道となります。
受講する期間の長さと比べれば、費用の自己負担額は非常に少ないと言えます。他にもコースは非常に数多くあるので、最寄りのハローワークにお問い合わせください。
※厚生労働省HP 離職者訓練・求職者支援訓練の案内ページ
■技能習得手当とは
公共職業訓練についてはお分かりいただけたと思います。次に、技能習得手当について解説します。
○技能習得手当の対象者
雇用保険の受給資格を持ち、ハローワークまたは地方運輸局長の指示によって公共職業訓練などを受講する方です。
技能習得手当は、失業期間中において雇用保険の基本手当とは別に支給されます。したがって、訓練を受けて新しい技能や知識を身につけるばかりでなく、雇用保険から支給される給付がより多くなるということです。
○技能習得手当の期間
企業などを退職してから失業手当を受給するまでには、最低でも7日間の待機期間があり、自己都合離職の場合はさらに2~3か月の給付制限期間が設けられています。
しかし公共職業訓練を受ける場合、この給付制限期間が免除されます。自己都合で離職しても、あまり待たずに失業手当を受給できるメリットは非常に大きいです。
また、失業手当を受給できる期間は、年齢や勤続年数、離職の理由などによって90日〜360日の間で決められます。例えば、自己都合退職で失業給付の受給期間が90日だった場合、その期間内に公共職業訓練を受ければ、訓練を修了するまで給付期間が延長されます。
つまり技能習得手当制度の目的は、
【失業中の方に、幅広い講習を安価で提供することで、個人の能力開発と速やかな社会復帰を促進する】
ということにあります。
■技能習得手当をぜひ活用しよう
このように技能習得手当程度は、求職者の速やかな社会復帰を促進するための制度です。ぜひ活用して、自己啓発および再就職に役立てたいものです。
まずはメリットから解説します。
○技能習得手当のメリット
先に解説したことと重複しますが、公共職業訓練および技能習得手当制度にはいくつものメリットがあります。
・公共職業訓練を受ける場合、失業給付を受けるまでの制限期間が免除される
・失業給付の受給期間内に公共職業訓練を受ければ、訓練修了まで給付期間が延長される
・講座自体の受講料は無料(テキスト代等は自己負担)
○技能習得手当の支給額
技能習得手当には、《受講手当》と《通所手当》があります。
受講手当は、基本手当(個人の給与額によって異なります)の支給の対象となる日のうち、公共職業訓練を受けた日が対象で、500円/日(上限額は通算で20,000円=40日分)が受けられます。
また通所手当は、公共職業訓練施設への交通費として最高42,500円/月まで受け取ることができます。
○技能習得手当が支給される条件
技能習得手当が支給されるためには6つの条件があり、これらを全て満たしていなければなりません。
- 退職前に雇用保険被保険者期間が12ヶ月以上
原則として、退職する前の2年間に雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上必要です。ただし、会社都合(倒産、解雇など)などでやむを得ない理由で退職した場合には、退職する前の1年間に被保険者期間が合わせて6ヶ月以上あることが必須貢献です。
- ハローワークで求職の申し込み手続きを済ませている
技能習得手当は、退職した人が1日でも早く再就職するために支給されるものです。そのためには所定の手続きをしていなければなりません。これがスタートです。
- 就職する意思がある
公共職業訓練と技能習得手当は、いわば就職の手助けをする制度です。訓練後に就職する意志がない、あるいはフリーランスや学生を目指す方には支給されません。
- 求職活動をしている
技能習得手当は、職を探していながら就職先が決まっていない場合に支給されるものです。(4)の意志だけでなく、実際に求職活動をしていることが必要です。
病気、ケガ、妊娠、出産、育児などはこれに抵触しますので、技能習得手当は支給されません。
制度の理念としては、やはり就職を支援するものですから、訓練後すぐに就職できることが条件です。
- 65才未満である
技能習得手当は雇用保険の基本手当を受給している人がもらえる手当です。しかし、基本手当の受給年齢には65才未満という制限があります。そのため、65才以上の方は技能習得手当をもらうことができません。
■技能習得手当受給までの手続き
技能習得手当を受給するための実際の手続きについて解説します。
- 離職票を持って最寄りのハローワークへ
退職した企業から「離職票」と「雇用保険被保険者証」が発行されますので、それらを持ってハローワーク「適用課」へ行き、基本手当をもらうための手続きをします。
- 公共職業訓練を受ける申し込みをする
その後、職業訓練を受けるための受講申し込み手続きを行います。訓練前には面接や筆記試験もあります。
- 職業訓練の開始・技能習得手当受給
面接等に合格したら、速やかに「公共職業訓練等受講届・通所届」を「雇用保険受給資格者証」とともにハローワーク適用課に提出します。
「公共職業訓練等受講届・通所届」は、ハローワークにも用紙がありますし、ハローワークインターネットサービスから印刷できます。
「雇用保険受給資格者証」は、基本手当をもらうために参加必須となる「雇用保険受給者初回説明会」にて渡されます。
- 職業訓練の開始・技能習得手当受給
公共職業訓練が開始されたら、失業認定日に「公共職業訓練等受講証明書」を「雇用保険受給資格者証」とともにハローワークに提出します。
「公共職業訓練等受講証明書」もインターネットからダウンロードできます。
そして4週間に1度の認定日に、ハローワークで失業の認定を行うことで技能習得手当をもらうことができます。
この認定は、ハローワークの担当者と実際に顔を合わせ、職業訓練の進捗状況や求職希望を話すことに意義があります。欠席すると求職の意志が薄いと判断されかねません。必ず指定日には出席するようにしてください。
■その他Q&A
その他に重要なことをQ&A形式でまとめました。
Q1:技能習得手当の上限はありますか?
A:技能習得手当の受講手当の上限額は2万円と決められていますので、それを上回る額は受給できません。
Q2:何度も失業し、そのたび失業給付をもらっても技能習得手当は支給されますか?
A: 基本手当の受給資格があれば、技能習得手当も支給されます。
Q3:公共職業訓練を途中でやめた場合、技能習得手当は返済すべき?
A: 返済する必要はありません。技能習得手当は職業訓練を受けることでもらえる手当だからです。
■技能習得手当を最大限に活用して新たな可能性を!
公共職業訓練と技能習得手当の制度は、失業者が速やかに社会復帰できるよう、国が資格取得の機会を設け、費用を支援して再就職を促す制度です。
ここで解説したように、その費用はかなり安く抑えられており、交通費として通所費用お支給されるなど、手厚い制度となっています。
こうして新しく技能を取得すれば就職の選択肢も増えますし、講習を受けた知識を元に資格試験に合格すれば、再就職の可能性はさらに広がります。この制度を大いに活用し、ステップアップする礎としてください。