タイトル
「未経験で製造業に応募する際、面接官の印象に残り他者に差をつける志望動機の書きかた」
かつて日本が「ものづくり大国」と言われていた時代がありました。器用な手先と勤勉さを生かし、原材料を輸入し加工品を輸出していたのは、主に1980年代のことです。自動車・船舶・家電などが世界を席巻し、「Made in Japan」が確たるブランドになっていました。
世界情勢の変化によって日本の立ち位置は異なってしまいましたが、それでもやはり、社会的生物としての人が使う「もの」が、生活と産業の大きな中心であることは変わりません。
今回は、「もの」を作る現場=製造業に応募するときの志望動機の書き方、そして必要とされる人物像について、他者に差をつけるポイントを解説します。
未経験であっても、これから解説するポイントをしっかり押さえれば、おそれることはありません。
■製造業界で求められる適性・人物像
製造業に応募するにあたっては、まず製造業で求められる適性や人物像について知っておかねばなりません。業種や役割によって若干異なりますが、共通して求められる要素は次のようなものです。
○技術的スキル・問題解決力
製造業では、対象とする原材料への化学・材料工学などの技術的な専門知識、および製造工程についての機械・電気的知識が求められます。製造工程で起きた技術的問題を解決する力、 品質問題を迅速に解決できる能力が必要です。
これらの適性や能力を持つ人材は、製造業界で高く評価され、活躍の場が広がります。
○コミュニケーション・問題解決能力
製造業の現場は、多くの人が働く工場です。そこでは、他部署を含めた多くの従業員と協力して作業を進めます。組織における自分の立ち位置を理解し、上工程・下工程に対して正確なコミュニケーションが求められます。
○向上心・責任感など
職長となった場合には、部下を束ね、プロジェクトをリードし、問題点を俯瞰する能力が必要となってきます。
それを最も分かりやすく示すのは、意外にも、宮大工に古来より伝わる「口伝」です。
《堂塔の建立は木の癖組み 木の癖組みは人の癖組み 人の癖組みは匠長が工人らへの思いやり》
神社仏閣の巨大建築を成功させるためには、匠長が工人一人一人を思いやり指導していくことが大切だという言葉です。職長たるもの、常に部下を気にかけ、プロジェクト全体がスムーズに進んでいくようにしなければなりません。
また職長は、製造業における新技術や新素材について、常にアンテナを立て、新しい知識や技術に対する感受性を高めておくことが必要です。
宮大工の口伝には次のようなものもあります。「木」を「人」に置き換えてもいいでしょう。現代のビジネスにおいても参考になります。
《木を買わず山を買え》 → 1本にこだわらず、山の環境全般に目を向けよ
《木は生きてきた方位のままに使え》 →木は生育した環境そのままに、適材適所で使え
○安全に対する厳格さ・感受性
工場ではさまざまな機械が稼働しており、大型トラックやフォークリフトなども走っています。そんな環境において仕事を安全に進めるには、一種の厳格さが必要です。
例えば、電源を切らなければこの仕事は一切させない、安全帯がなければ高所作業をさせないといった、ルール遵守の気持ちです。
■未経験から製造業の志望動機を書く際のポイント
製造業未経験でも、「ものづくり」の現場で働きたいと思う方は多いことでしょう。そう志望する方のために、次に志望動機のポイントについて解説します。
ポイントは3つあり、【具体的に、自分の言葉で、質問を想定して書く】
ことです。
未経験者がつまずきがちなステップですが、ここは時間をかけても熟慮して作成し考えてください。
○志望動機は具体的に
製造業のどこに魅力を感じているか、いつ、どんなきっかけで製造業に興味を持ったかを具体的に記述します。例えば、
「趣味が昂じていく過程で、そのアイテムを製造する過程に興味を持った」
「叔父の家は自宅兼工場で、自動車部品が作られるのをいつも見ていた。自分もその仕事に就きたいと思っている」
などです。
また、自分が自慢できるスキルや資格をアピールする方法もあります。
「前職で習得した問題解決能力やチームワークを製造の現場で活かしたい」
「製造業で働くために、自己負担でフォークリフト運転と玉掛講習を受講しました」
○自分の言葉で書く
インターネットで履歴書の志望動機を検索すれば、たくさんの結果が出てきます。なかには
「これだ!」と思う文章があるかもしれません。
しかし、そのまま使ってはいけません。文意を掘り下げて考えて一字一句考えて自分の言葉に置き換えて書かねばなりません。そうしないと、面接官から聞かれたとき的確に答えられなかったり、学歴や職歴と矛盾したりしてしまいます。
○面接官からの質問を想定しておく
上の項目とも関連しますが、ネットを検索して、例えば次の文が気に入って履歴書に記載したとします。
「自己の性格が製造業に向いていると思い、志望しました」
深く考えず書いた場合、
「では、あなたのどういうところが製造業に向いているのですか?」
と聞かれたら、返答に困ってしまいます。
こうならないために、面接官から質問される内容をあらかじめ想定しておきましょう。
「では、あなたの性格とは?」
「それは、いつ、どのような場面で感じましたか?」
などです。
■製造業の志望動機を書く際のNGポイント
NGポイントは、推薦できる志望動機の反対とも言えます。次のポイントに該当することがないように書きたいものです。
○志望動機が具体的でない
「ものづくりが好きだから」
「IT業界に魅力を感じている」
こうした志望動機はあまりに曖昧で、面接官の心象に残らないばかりか、本当に志望しているのかさえ疑ってしまいます。
○企業研究が足りない
面接官は、応募者がどの程度熱意を持って面接に臨んでくるかを注目しています。それは企業に対する興味の度合いでもあり、それは志望動機に如実に表われます。
しかし、志望する企業の特徴や強みをよく理解していないと、
「御社に入社したい!」
という意志が弱いと見なされてしまいます。
最低限でも、応募する企業のHPは隅々まで見ておき、製品の知識も蓄えておきましょう。
○他力本願、給与や福利厚生に重点を置いている
面接官が見ているのは、どのような意思で応募してくるか、どのような人物であるかです。
しかし、「福利厚生が充実しているから」「給料が良いから」など他力本願の動機では、入社後の働きぶりに期待できそうにありません。
自分自身の意思で「こうしたい」とアピールすることが大切です。
■面接官の印象に残る志望動機の例文
数ある応募書類の中から、面接官の印象に残る志望動機を作成するためには、次の視点が必要です。
・個人的エピソードを盛り込む
・企業と自分の目標が一致している
例文1
「私は幼少期から、家電や機械を分解して内部構造を見るのが好きで、それが昂じて製造業に強い関心を抱くようになりました。そんなある日、貴社製品には独自の部品が使われていることを父が教えてくれました。それ以来、貴社は私にとって特別に興味を持つ対象となりました。
そんな独自性を発揮し、貴社がかつて販売していたエポックメイキングな製品を、私も作ることができたらと夢を描いています」
例文2
「私は中学校を卒業するまで体が弱く、○○薬が欠かせませんでした。病気を克服していく過程で、その薬を開発したのは貴社の創業者であることを知りました。私もいつか新薬を開発して多くの人に貢献したい、そんな思いから大学では化学を専攻しました。幼少の頃からの思いを是非御社で発揮したい、今はそんな気持ちで一杯です」
■製造業の採用担当者が面接で見るポイント
ここまで、志望動機の書き方について解説しました。次に、実際の面接において、採用担当者(面接官)が見るポイントについて解説します。
採用担当者が面接で見るポイントはいくつかありますが、主に《意志の強さ》《能力》《人物像》の3点です。
○意志の強さ
入社に対する意志の強さとは、熱意です。是が非でも入社したい、入社すればこういうことがしたいという熱意は、面接官にも伝わります。多くの応募者と面接したあとでも、印象に残りやすいものです。
面接時は、明るく、はきはきと受け答えをするように心がけましょう。
○能力
大学をはじめ学校で何を習得してきたか、どんな専門知識があるかは、実際に働くうえで重要な位置を占めます。
例えば素材メーカーや部品加工メーカーであれば、素材に対する知識、製造機械に関する知識は非常に重要です。必須と言ってもいいでしょう。
他には、品質管理。工程管理、設備保全などに関する能力もあるに越したことはありません。要は、原材料を機械にセットして最終製品ができるまでの過程(工程)に関する知識・能力ということです。
ここで、ひとつ注意したいことがあります。
入社に際し、意志の強さと能力のどちらを重視するかは、応募者の年齢によって企業対応が違ってきます。20代など年齢が若ければ、多少の能力不足は《意志の強さ》でカバーできるでしょう。しかし30代後半から40代以上になると、過去に獲得してきた《能力》が重視されます。応募する側も、そのウェイトバランスを意識しなければなりません。
○人物像
これは端的に言えば、
「一緒に働きたい人物かどうか」
です。明るく健康的で、コミュニケーション能力があるかどうか。
コミュニケーション能力とは、自分の考えを的確な言葉に変換し相手に伝えること、相手の言うことを的確に素早く把握する能力です。
採用担当者の一番の楽しみは、自分が採用した社員が徐々にスキルアップし、役職を任命され、会社を支える存在になっていくことです。そのための最低条件は、一緒に働きたいと思われることです。
身だしなみ、姿勢、立ち居振る舞いにも注意しましょう。内面はこうした部分にも出てくるからです。
■志望動機は必ず自分で考えよう
ネットで志望動機を検索すれば、瞬時に数多く表示されることは、一度触れました。
しかし、応募する側が検索する回数より、面接担当者が日々目にする志望動機のほうがはるかに多いことに注意しましょう。
つまり、単なるコピー&ペーストであったり、単に響きのいい言葉の羅列であったりする文字列は、たちどころに見破られてしまうのです。そして、このように作成した志望動機は、面接官から何か聞かれた場合、返答に窮してしまいます。
志望動機は、必ず、自分で考え、自分の言葉で書く。この鉄則を忘れないようにしてください。