「ものづくり」を行う製造業は、日本経済のひとつの中心をなす大きな産業です。1960年代から始まった日本の製造業は、日本人の勤勉さと手先の器用さによって、世界をリードする産業がいくつも生まれました。自動車、家電、船舶などに代表される「Made in Japan」は世界に通用するブランドです。
21世紀になって産業の構成は変化しましたが、「もの」を生み出す充実感や達成感を味わえ、先端の技術に触れることができる製造業は、仕事としても魅力的です。
今回は、未経験で製造業に転職する場合について解説し、また年代別の転職ポイントなどについても解説します。
■製造業への転職は難しいのか
製造業への転職が難しいかどうかは、応募者(あなた)が企業から必要とされる能力・スキルをどれだけ有しているかによって変わります。具体的には、経験や資格の有無、企業への適性などです。これらがあれば転職の難易度が上下しますし、有利にもなります。
それぞれの要素が転職にどう有利になるか、以下、個別に解説します。
○未経験でも十分可能
製造業へ転職したい場合、
「未経験だが大丈夫だろうか」
と不安を持つ方も多いことでしょう。結論から言えば、未経験でも全く問題ありません。
特に20代での転職なら、未経験であっても全く問題はありません。なぜなら他業種に費やした時間は数年ですし、先は長いからです。
ただし、製造業は単独で機械と向き合うだけではなく、原材料が最終製品となるまでには幾つもの過程があります。上工程と下工程との連絡、不具合やトラブルの報告、月次・日次の生産計画などにおいては、必ず仲間や上司とのコミュニケーション、報告・連絡・相談が発生します。
そこでは、協調性、正しい日本語の表現力などが必要です。
「製造業は、人と話さなくてよさそう」
と思うのは間違いで、製造業はチームワークによって成り立っています。人と接することが苦手では務まりません。
■製造業への転職に役立つ経験とスキル
転職がスムーズなのは、既に製造業への勤務経験がある場合です。しかし今回解説するのは未経験者にとっての製造業転職ですから、経験者については省略します。
○専攻科目
製造業の経験が少ない場合でも、製造業界が求める技術や専門知識を身につけていると、有利に働くことがあります。
例えば、大学などで材料工学や金属工学を学んでいた場合です。卒業して一旦製造業以外の業種に就職したが、再び製造業を志望する場合には専門知識が生きてきます。
一口に製造業と言っても、鉄鋼と薬品では必要とされる専門能力はかなり違ってきます。自分の専攻や専門はどの製造分野に役立つか、考えてみましょう。
○他業種でのマネジメント経験
他業種での経験を製造業の転職に生かすことも可能です。例えば、コンビニエンスストアでマネージャー、時間帯責任者をしていた場合です。人員を上手に配置し、店舗全体をスムーズに営業した経験は他業種での《マネジメント=全体を見ること》という面で役立ちます。
違う業種でマネジメント能力を発揮していた場合、管理者をしていた場合の経験は生きてきます。応募したいと思っている業種や職種において、自分の強みや経験がフル活用できればしめたものです。
○製造現場以外への就職も
さらに言えば、製造業での求人はいわゆる現場作業員だけではありません。工場規模が大きければ従業員数も増えるため、事務、経理、人事、品質管理、生産管理などの職種に携わる社員も多いです。
製造業の求人のメリットとして、従業員数が多いために事務職や管理職など、製造現場以外の職種も募集していることがあげられます。これらの職種は、製造業の経験がなくても過去のスキルがそのまま生かせます。製造業の現場労働で応募したが、経理の資格に注目されて経理課に内定した、ということもあり得ます。
中小企業なら、特定の分野におけるスペシャリストより、幅広いマネジメント能力が発揮できるゼネラリスト
このように製造業への転職は、経験がなくても可能です。
必要な能力やスキルが自分に欠けている、あるいは物足りないと感じる場合は、納得するまでスキルを磨くことをおすすめします。
○その他の経験・スキル
製造業においても、近年では機器のデジタル制御やIT化がどんどん進んでいます。これらの経験も役立ちます。
その他には、
・IT関連資格やデータ解析能力
・衛生管理者、公害防止管理者などの資格
・クレーン運転士、電気工事士などの資格
・玉掛、フォークリフト、溶接などの技能講習
などがあげられます。
■製造業への転職の際に考える魅力と大変さ
○製造業の魅力・メリット
製造業で働くことの最大の魅力・メリットは、専門の知識や技能が身につくことです。自分が扱うものが鉄鋼やゴムなどの素材であっても、自動車や家電製品など完成品であっても、専門の知識が身につきます。
また大きな工場になると、従業員数が増えます。その結果スケールメリットとして、昼夜営業している食堂、風呂、社内コンビニ、独身寮、社宅など福利厚生が充実してきます。これは大規模製造業ならではの大きな魅力です。
○製造業の大変さ・デメリット
反対に、製造業に特徴的な大変さもあります。
その一つは、単純作業が多くなることです。製造業に従事すると分かりますが、
「こんなに一日中同じものを作って、本当に売れるの?」
と思うほど、同じ製品を驚くほど大量に作ります。
実のところそんな心配は杞憂で、日本や世界は広いですから、全て売れてしまいます。
ただしこれは労働そのものが同じ作業の繰り返しとなり、途中で飽きたり集中力が低下してしまったりします。
メンテナンスの油脂交換、ピット清掃など汚れる作業が多いことと、労災が他業種に比べて多いことも、デメリットです。
厚生労働省は、労災の発生被頻度と重篤度に合わせて労災保険料率(※)を定めています。
例えば
【卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業】 → 3/1,000
ですが、製造業では
【電気機械器具製造業】 → 2.5/1,000 (製造業のうちで最も低い)
【その他の窯業又は土石製品製造業】 26/1,000 ( 〃 高い)
となっています。《労災保険料率=労災が起きる頻度》と考えて差し支えありません。
※出典元
■年代別の製造業への転職事情
転職活動は、年代によって求められる資質が異なります。若ければ未経験でも向上心があれば採用されやすいですが、年齢と共に管理能力や専門性が求められます。
○20代
経験よりも、将来性、明るさ、意欲、協調性が重視される傾向が強いです。
20代前半なら新卒とさほど変わりなく、社内研修などを受講することで順調な成長が可能です。
○30代
特定分野の専門スキルや実務経験を持っていることが期待されます。
例えば、設計・開発、品質管理、工程管理などの経験があれば、それを生かしたキャリアアップを狙うことが可能です。リーダー、マネージャー経験も高評価につながります。
スキルと実績が評価されれば、給与や役職面での向上も期待できます。
○40代以上
40代以上の転職は、特定の技術分野での深い専門性や豊富な経験が何よりも大切です。
製造業においては、技術開発などのエンジニア、品質管理部門における高いスキルが強く評価されます。
豊かな工程改善の技術・着眼点を蓄えていれば、業種が違っていても、即座にネック工程を発見できるものです。こうした視点で工場全体の運営や生産ラインの最適化が求められます。
■製造業で取得できる資格について
製造業においては、実に多種多様な資格を取得することができます。代表的なものを列記します。
機械保全技能士
ボイラー技士
電気工事士
危険物取扱者
フォークリフト運転技能講習
玉掛技能講習
衛生管理者
公害防止管理者
エネルギー管理士
特定化学物質等作業主任者
電気主任技術者
仕事上必要な資格であれば、講習や試験にかかる費用は全て会社が負担してくれます。
資格は企業ではなく個人に帰属しますから、転職するときにも有利です。製造業で一旦取得した資格は、その後の転職にも活用したいですね。
■まとめ
製造業は、日本の産業を代表する産業のひとつです。そこで働くことは、高度な専門知識を習得できたり、豊かな福利厚生を享受できたりと、メリットが多いです。
年代によって必要とされる経験や資質は異なりますが、どの年代にとっても、製造業が魅力的な職場であることには変わりありません。
また業務上必要な資格は取得できますので、のちのち転職したりキャリアアップしたりするのにも有利です。
未経験者が製造業に応募する際は意欲や協調性を前面に出し、経験者はマネジメント能力や経験が即戦力につながることを上手にアピールし、転職活動を成功させたいものです。