「ものづくり」=すなわち素材から組立品に至るまで、さまざまな製品を作り出す現場となるのが製造業です。製造業と聞いて、多くの人が想像する作業は、機械に向かって原材料を投入する作業、あるいは多様なパーツで製品を組み立てていく作業でしょう。
確かにそれも製造業の一面ですが、製造業の職種は、工程や品質にかかわるものなど、数多くあります。
今回は、製造業を志望する方のために、製造業における職種を詳しく解説します。
■製造業とは
○製造業の分類
まずは製造業の定義ですが、総務省が平成25年に改定した「日本標準産業分類」(※1)では次のように定義されています。
(1) 新たな製品の製造加工を行う事業所であること。
(2) 新たな製品を主として卸売する事業所であること。
ここでは製造業の種類が数百にも分類されており、列記していけばきりがありませんが、要は「新たな製品」を作り出す事業所ということになります。
また経済産業省では違う視点で分類を行っており(※2)、「基礎素材型産業」、「加工組立型産業」、「生活関連型産業」の3つに分けています。
(1) 基礎素材型産業
各産業の基礎となる素材を製造する事業所で、鉄鋼、非鉄金属、石油、ゴム、石材、紙などが該当します。
(2) 加工組立型産業
一般機械器具、電機機械器具、輸送用機械器具、精密機械器具を製造する事業所で、エレベーター、家電、自動車、時計などが該当します。
(3) 生活関連型産業
食料品や飲料、衣服、家具など、衣食住に関連するものを製造する事業所です。
加工組立型産業と生活関連型産業は、製品が直接消費者の手に渡ります。自分が手がけたものが形ある商品として店頭に並びますから、「ものづくり」の満足度をダイレクトに感じることができます。
一方、基礎素材型産業はこれら2つの産業とは違い、目に見える製品としては感じにくいです。しかし、例としてゴム製造業を考えてみましょう。1台の車には、数多くのゴム製品が使われています。ワイパー、タイヤ、サスペンションのブッシュ、バッテリーなどの絶縁部、ドアパッキンなど。
もしも、雨の日にワイパーがなかったらどうでしょうか。視界が確保できなくなって走るどころではありません。しかも、ワイパーゴムに替わる素材はないと言ってもいいでしょう。タイヤについても同じことが言えます。
特定の製品としては認識されなくても、基幹素材とは、便利な暮らしを陰で支える大切なものなのです。
製造業の分類は以上になります。それぞれの産業からさらに多くの職種に分かれるように思えますが、実際はそんなことはなく、どの産業においても基本は一緒です。次章で解説します。
■製造業の職種
○直接部門と間接部門
製造業の職種について考える場合、まずは大きな分類として、《直接部門》と《間接部門》とに分けると理解しやすいです。
直接部門とは、新たな製品を生み出す作業に関わる全ての部門です。いわゆる「現場」にたずさわる職種です。
間接部門とは、新たな製品の製造には直接関わらないが、製造に必要不可欠な部門です。企業によって部署名は違いますが、生産管理、品質管理、設備管理、技術部、総務や人事などの事務部門などです。工場に営業部や研究開発部門が隣接されていれば、これらも間接部門に分類されます。
以下、それぞれの部門における職種について、順に解説します。
○直接部門
直接部門は、製造現場に直接たずさわる部門で、そこで中心的位置を占めるのが製造の職種です。直接部門イコール製造職と思ってもいいでしょう。
(1)製造
例えば基礎素材型産業なら、機械に原材料を投入してから完成品になるまで、たくさんの工程があります。最終的に製品として出荷するまで、全ての工程が製造職です。
その最終段階において、検査や梱包の仕事もあります。これらは新たな製品の製造には該当しませんが、製品として出荷するまでの工程として直接関与するので、直接部門として考えます。
○間接部門
間接部門には、多くの職種があります。職種としては多いですが、人員の比率は少ないので、その点は間違えないようにしましょう。概して、1つの工場での直接:間接人員数は、7:3から8:2です。
- 生産管理
営業部の受注状況を元に、最適な生産計画を立案し、製造部門に生産指示を行う職種です。
「どの商品を、いつまでに、どれだけ生産するか」
という視点で、製品を顧客へ届けられるように生産を管理します。
《顧客の要望》:《生産効率+エネルギー消費量+段取り》
などを総合的に考えることも必要で、時には得意先から突発的な大量受注も発生します。
《必要なスキル》
・生産効率を上手に組み合わせ、遅滞なく生産を行うマネジメント能力、センス
・幅広い顧客情報と製品知識
- 品質管理
製品が規格を満たしているか、一定水準以上の品質を保持しているかを確認する職種です。
仕事の対象は製品の品質に特化され、日々の工程チェック、パトロール、新製品の問題点探究、クレームへの対応と対策などを行います。
基礎素材型産業、加工組立型産業、生活関連型産業いずれにおいても、品質的に大きな問題が起きると、リコールにより莫大な費用がかかったり、健康被害を起こしたりと、社運に関わる事態にもつながりかねません。
《必要なスキル》
・自社製品に対する深い知識
・高い責任感とモラル
・疑問点や不審点を諦めない探究心、粘り強さ
・可能性のあるトラブルを予想し、事前に対処するリスクマネジメント能力
- 設備管理
工場が大規模になると、製造機械や輸送システムなど、工場内の設備を専門にメンテナンスしたり修理したりする職種が必要になってきます。人員が増えると仕事がどんどん細分化されるのと同じことです。
仕事は大まかに2つあり、1つは計画を立てた定期的なメンテナンス・点検です。もう1つは突発的な修理依頼への対応です。機械は稼働させれば必ず消耗してきますから、定期点検をしっかり行えば突発修理は減らすことができます。
仕事柄、電気回路や機械設備の修理など、いわゆる「非定常作業」が多くなります。危険予知をしっかり行い、修理中の機械操作盤には「操作禁止」の札をかけるなど、常に安全を意識しなければなりません。
《必要なスキル》
・機械や電気への専門知識
・電気主任技術者、電気工事士、機械保全士など設備保全のための専門資格
・IT化やAI化が進む設備に対し、自らの知識・技術を常にアップデートする意欲
- 生産技術
工場の製造ラインの効率化、生産性の向上を考える職種です。
どの業界にも必ずライバル企業があり、新商品の開発や納期などにおいて、お互いに切磋琢磨しています。生産技術は、こうしたライバルに先がけて
・新しい機械、設備の導入
・生産性を上げるための機械レイアウトの検討
・コンピューター化、ロボット化の検討
・省エネルギー
などについて日々取り組みます。
《必要なスキル》
・生産工程の問題点を発見し、改善案を生み出す知識、発想力
・設備の不具合、ネック箇所を1箇所ずつ減らしていく根気
- 商品企画・開発
自社で製造する新しい製品を生み出す職種です。
基礎素材型産業では、新しい素材を開発することはあまりありません。この職種が活躍するのは、加工組立型産業と生活関連型産業です。
なかでも生活関連型産業での新商品開発サイクルはめざましく、例えばお菓子や飲料は、毎年膨大な種類の新商品が登場しては消えていきます。
《必要なスキル》
・綿密な市場調査力
・顧客ニーズ、潜在ニーズを形あるものに変える発想力、ひらめき
・新商品開発に向けて周囲を動かしていく折衝力
ここまでは製造業に不可欠の職種です。次にあげる職種は製造の職種とは直接関係ありません。これら部署は必ずしも工場に置かれているわけではなく、本社、営業所という事業所に置かれることもあります。
- 総務や人事などの事務部門
製品ではなく、人に関わる職種です。従業員の賃金計算、福利厚生、安全衛生、採用や教育などを担当します。
《必要なスキル》
・労働基準法、労働安全衛生法などの知識
・全ての従業員に対して公平に接する人間愛
- 営業
製品を売り込む職種です。
自社製品をよく理解したうえで、人と接することが好きな人に向いています。
《必要なスキル》
・自社製品に対する幅広い知識
・営業マンとしての素質(明るさ、誠実さ、折衝力、説得力など)
2. 業種は違っていても職種の基本は同じ
製造業には、製造する製品によって大きく3つに分けられます。基礎素材型産業、加工組立型産業、生活関連型産業です。
基礎素材型産業は、消費者が購入する製品を構成する要素として必要不可欠なものです。加工組立型産業、生活関連型産業は消費者が直接利用したり購入したりするものです。その点で3つの産業は異なっていますが、そこにおける職種は、上にあげたように共通しています。
ここで注意しておきたいのは、扱う素材が鉄鋼であれゴムであれ、あるいはエレベーターでもお菓子でも、基本は同じだということです。
鉄鋼業と食品製造業とでは、職場環境は全く違います。しかし素材や製造対象が違うだけで、製造、製造技術、品質管理、商品企画など、向き合うべき姿勢や必要なスキルには大差ありません。
製造業を就職先として選ぶ場合は、業種で選ぶよりも、職種で選べば間違いないでしょう。自身の特性や性格が、反復した作業をしても苦にならないか、次々とアイデアが湧いてくるタイプか、マニアックな追究を得意とするタイプか、その観点で職種選びから入ることをおすすめします。
3. まとめ
製造業は「ものづくり」をする現場として、現代社会を支える大切な産業の一つです。
したがって、新卒者の就職先としても、また未経験者が中途入社する先としても、魅力的であることは間違いありません。
獲得へのハールドが高いスキルもありますが、それは製造業が、長時間かけて取り組む価値のある職種だということです。
製造業は、就業形態や福利厚生の面でも魅力のある職種です。ぜひ製造業で、あなたの力を思う存分発揮してください。
(※1)総務省のHP
(※2)経済産業省のHP