製造業とは、製品や物資を作ること=「ものづくり」です。
製造業には、鉄鋼やゴムのように、特定の原材料を元に違う素材を製造する産業もあれば、家電や自動車のように、複数の素材や部品を組み合わせて完成品とする産業もあります。
戦後の1960年代、日本が奇跡的な復興を遂げた原動力は、日本人の勤勉さと手先の器用さから生まれた製造業の底力にありました。
他方、日本の就業人口割合は年々少しずつ変化しており、2020年の【国立社会保障・人口問題研究所】の統計(※)によれば、製造業が属する《第二次産業》の従事者数割合は23.4%で、サービス業等が属する《第三次産業》の73.4%とはかなりの隔たりがあります。
しかし、大規模な事業所である製造業は、安定した就業先であると共に、地域の雇用や税収に貢献し、ひいては国家の屋台骨を支える重要な産業です。
今回は、未経験でも製造業で働きたい方のために、前半では製造業の魅力や特徴について、後半では製造業に応募するポイントについて解説します。
※出典 https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Data/Popular2023RE/T08-07.htm
■未経験者が知っておきたい製造業の仕事内容や魅力
○工程による分類
製造業の基本の職種とは、現業すなわち現場作業です。原材料を機械にセットし、出てくる製品を加工し仕上げていく工程です。例えばアルミサッシなら、一つの工場内でおよそ次の8工程があります。
アルミ原材料受け入れ・選別 → 炉内投入・精錬 → インゴット製造
→ 押出 → 整形 → 塗装・皮膜完成 → 検査 → 出荷
一連の工程は川の流れに例え、前の工程を「上(かみ)工程」、次の工程を「下(しも)工程」と呼びます。工程ごとに製品を滞留することがほとんどで、流れ作業ではありません。未経験者でも、社内研修を受ければスムーズに始められます。
○職種による分類
上にあげたような工場現業の職種は、【直接部門】とも呼ばれ、さらに「鋳造工」「押出工」「塗装工」などと分ける場合があります。
さらに、これら現業にかかわらない【間接部門】もあります。品質管理、設備管理、生産管理などは製造現場があれば必然的に必要な職種です。
さらに、事業所が大きくなると(企業規模によって「部」や「課」など呼び名はさまざまですが)、「技術」「開発」「人事」「総務」「経理」などの部門ができてきます。
未経験者が製造業に転職する場合、配属先は現業ばかりではありません。資格や適性によってこれら間接部門への配属も十分あり得ます。
○製造業の魅力
製造業において一番の喜び・達成感を感じるのは、自分のスキルアップをダイレクトに実感したときです。例えば、先月までは歩留まり70%だったのが今月は苦労せず80%を達成した、前年同期と比べて今年は機械稼働率を20%上げることができたなど、スキルアップが数値として表われてくれば、それは大きな達成感につながります。
この点は、人を相手とする営業職にはない、製造業ならではの特徴です。機械や数値は、個人のスキルアップを忠実に反映してくれます。
■製造業に転職するメリットと注意点
○メリット
(1)未経験者でも従事できる
製造業では、入社時研修やOJT(On-the-Job Training)が充実しており、事前に専門知識がなくても従事できる職種が豊富です。
また、一度身に付けたスキルは、他の製造現場で活用できます。たとえば、機械加工や溶接のスキル、技能講習や資格は他の産業でも役に立ちます。製造業に従事する過程でチームワークのスキルも身につきます。
(2)安定した勤務環境
多くの製造業には、次のような特徴があります。
・営業職などと比較すると勤務先が安定しており、転勤はあまりない
・産業構造の変化によって交替勤務(夜勤)は減少している
・会社規模が大きくなると社員食堂・風呂・社宅・独身寮など福利厚生が充実してくる
・作業服や安全靴は無料で支給または貸与される
○注意点
(1)危険な作業がある
製造業で扱う原材料には、金属などの重量物、高温の物体、粉じんを発生する物、強酸や強アルカリの化学物質などがあります。これら物質を扱う過程では、クレーンやフォークリフトを使ったり、防護服を使ったりして作業者の体を保護します。
それらの設備使用や安全用品によって危険は軽減できますが、ルールを守らないと、危険は不意に襲いかかります。
(2)汚れる作業もある
製造業で使用する機械には、潤滑油や油圧作動油が必要です。これらは動作すれば必ず汚れますから、定期交換が必要です。さらには、冷却水、化学物質、有害な蒸気や粉じんを発生する物質もあります。
製造業において、これらの物質を扱うことは避けられません。サービス業等ではあまり関わることのない、製造業に特有の作業です。
また、全体的に減ってはいますが、夜勤勤務もあります。1週間交替など、一定の周期で昼夜勤を繰り返すのは自然な生活リズムに反します(交替勤務手当、深夜手当などはそのためにあります)。
■製造業への転職に向いているのはどんな人?
どんな職種にも適性があり、もちろん製造業においても、向いている人、向いていない人が存在します。
製造業には現場作業から技術職、事務職、管理職まで幅広い職種があります。次に、製造業に向いている人の特徴、傾向をあげます。
(1)連続作業が苦にならない
製造業では、一日中同じ作業を繰り返し行うことが多くなります。これら作業に飽きず、粘り強く、集中力を保ちつつ続ける能力・資質が求められます。
注意や集中を欠いたために、一瞬の油断が大きな事故(けが)を招くこともあります。注意力を欠かさず生産性を維持するのは大変なことです。
(2)手先が器用な人
製造の現場において、意外なことに「勘」や「職人技」がものをいうことは多いです。
産業がハイテクになるほど、これらが入り込む隙はなくなってきますが、素材産業などにおいては、手先の器用さ、指先の繊細な感覚などが製品の良し悪しに関係してきます。
また器用な人は、同じ水準の製品を、短時間で効率よく製造することができます。
(3)チームワークを大切にする人
製造業の現場では、先に述べた上工程や下工程があり、そこには多くの従業員が関わっています。各工程が連携して製品を作るためには、皆がよくコミュニケーションを取り、協力して作業することが必要です。
これら過程における「報連相」=(報告・連絡・相談)、設備や材料の不具合を的確に伝えることのできるコミュニケーション能力が必要となってきます。
(4)安全と危険の境界を察知できる人
製造業の現場には、さまざまな危険が潜んでいます。大馬力の機械、暑熱物、重量物、化学物質をはじめ、トラックやフォークリフトが走行する環境など。一歩間違えれば事故が起きかねない環境では、安全に対する敏感な感受性が大切です。例えば、機械の異音を察知する、クレーンで使うワイヤーのほつれに気付く、修理に使う脚立のガタに気付く・・・これらに対する感性が身を守ります。
一方で製造業に向いていない人は、これらの反対の性向を持つ人ということになります。連続作業が苦手、チームワークより単独行動が好きといった場合は、他の職種のほうが向いていると言えるでしょう。
○未経験者の強み
製造業の経験がないということは、時に強みにもなります。
例えば、製造業では不可避の【安全に対する意識】です。安全意識の低い事業所で長く働いた場合、例えば《ヘルメットをかぶらない、保護具をつけない、フォークリフトやクレーンを無資格で操作する》などが習慣として身についてしまうと、厳格な安全管理が窮屈に感じてしまいます。
それは、危険な状態に進んで身を置くことを意味します。
未経験者なら、作業手順を、真っ白な紙に、順序よく、書き進めることができます。企業が新卒者を採用するのと同じ理屈です。
未経験であることは、静かな誇りにしてもいいぐらいです。
■製造業で役立つ資格等
製造業で役立つ資格はいくつもあり、多くの業種において役立つ資格があります。それらをご紹介しますので、職務に応じて取得することをお勧めします。
下記に掲げる(1)は主に製造現場で、(2)は管理的職種に必要とされることが多いです。
(1)技能講習を受講すれば取得できるもの
・フォークリフト運転技能講習
・玉掛技能講習
・5トン未満クレーン運転士
・自由研削といしの取替え等特別教育
・ボイラー技士
(2)試験に合格すると取得できるもの
・危険物取扱主任者
・衛生管理者
・機械保全技能士
・品質管理検定(QC検定)
・公害防止管理者
・第二種電気主任技術者
■製造職への転職を成功させるポイント
製造職への転職を成功させるには、業界や職種の特性を理解し、スキルや適性をしっかりアピールすることが大切です。次にポイントを解説します。
(1)転職の目的を明確にする
製造職への転職を考える理由や目標を明確にしておくことが大切です。
たとえば、「ものづくりが好き」「製造業を通じて社会に貢献したい」など、明確な動機を整理しておくと、企業に対して自分の意志をアピールしやすくなります。
(2)業界や職種の研究をする
全ての就活において、業界や職種の研究は欠かせません。
自分が興味を持っている業界や企業についてよく調べ、製造工程を理解することで、面接時の説得力が増します。
(3)過去の職歴と関連づける
製造業が未経験であっても、過去、仕事に対する姿勢を製造業に関連づけると一つのアピールとなります。
たとえば、前職で「チームワークを大切にしてきた」「チームリーダーだった」「時間帯責任者をしていた」など、チームワークやリーダー経験をアピールしましょう。
(4)自分の長所と短所を可能な限り分析しておく
就活を成功させる一番のステージは、面接です。そこで人事担当者から想定外の質問をされても、落ち着いて答えることが大切です。
そのために、次の2つを実践してみましょう。
・どんな質問にも答えられるよう、事前に「想定問答集」を作成してシミュレーションする
・自分の長所と短所を、それぞれ10項目以上箇条書きにして整理する
こうすることで自分を客観的に見つめることもできます。是非おすすめしたいポイントです。
○未経験から製造業の志望動機を書く際のポイントやNGポイント
「未経験であることは一つの強み」であることは一度解説しました。
しかしそれだけでは強いアピールにはなりません。志望動機とは、
【どうしても御社で働きたい、どうしても製造業で働きたい】
ことを強く訴えるものであることが必要です。
そのためには、【志望動機は必ず自分で考え、自分の言葉で書く】ことです。インターネットの雛形やサンプルを真似してしまうと、人事担当者はたちどころに見抜いてしまいます。なぜなら人事担当者は、膨大な数の応募書類を見ているからです。
どうしても御社で働きたい → 緻密な企業研究が勝敗を分けます
どうしても製造業で働きたい → 強い意志、過去の経験との関連づけが求められます
これらをよく考え、志望動機を一字一句から作成してみましょう。
■製造業の未経験を活躍に変える
明治時代の思想家で、現代日本に大きな貢献をした偉人の一人が、こういう言葉を残しています。
「世の中で一番楽しく立派な事は、一生涯を貫く仕事を持つということです」
これは、福沢諭吉の言葉です。生涯を通じて一つの仕事を持ち続けること。この言葉の真理は150年前から変わっていません。
もちろん、仕事とは製造業ばかりではありません。しかし手に職をつけて、スキルアップを実感できる製造業という仕事は、一生涯携わるに値する仕事です。未経験とは、それだけさまざまなことを吸収できるポテンシャルがあるということです。
是非、あなたの人生を、製造業というステージで発揮してみてください。