製造業に必要なスキル

製造業に必要なスキル

どんな業種においても、必要なスキル(技能、能力)というものがあります。農業や漁業をはじめ、医療でも接客業でも、その業界で働いていくためのスキルは必ず必要です。

もちろん製造業においても一定のスキルが求められます。

今回は、製造業における技術的なスキルを中心に解説し、求人とスキルとのかかわりについて解説します。

■製造技術とは

○製造技術の目的

製造の三要素は「人、もの、金」と言われますが、製品を作るためには、従業員、原材料、資本が必須です。

製造技術とは、これらの要素を使って企業が製品を製造するための技術です。企業は、独自の技術を開発することで他社製品との差別化を図り、市場シェアを伸ばし、利益を増大させることを目的としています。

○製造技術でQCDを向上させる

そこで製造技術とは何かを考えてみると、次のように言えるでしょう。

【限られた従業員・原材料・資本のなかで、できるだけ高品質な製品を、できるだけ安く、できるだけ早く、作るための技術】

品質=Quality、安く=Cost、早く(納期)=Deliveryですから、英語の頭文字を取って「QCD」と言う場合もあります。このQCDを高めていくための手法が製造技術です。

具体的にあげればたくさんあります。

製造設備について言えば、設備の問題点発見と改善、機械レイアウトの改善、製造ラインの効率化などです。また製品そのものに関しては、原材料の選定・吟味、工程改善、仕掛品量の適正化、梱包材と梱包方法の改善などが対象となります。

○製造技術とスキル

すなわち製造技術は何かと言うと、広い意味では「企業あるいはメーカーが保有し蓄積している技術の総体」ということになります。

また狭い意味では、QCDを向上させていたくために訓練や学習によって個人が獲得した特殊な能力・知識を指します。

それに対してスキルとは、総体としての技術を製品に反映させ、品質を維持していくために個人が持っているものを指します。呼び方はいろいろありますが、技能、技量、技(わざ)、手腕、腕、テクニック、能力などの言葉で表されます。

スキルは一朝一夕に獲得できるものではなく、長期あるいは集中的な訓練・学習によって形成された優れた能力を指します。

■製造技術の具体的な内容や役割

○技術と技能

技術と技能は似た言葉ですが、企業で使う場合には、異なる意味で使われることが多くなります。

まず技術とは、設備を改善したり生産性を向上させたりする目的のために発揮される個人の知識・能力です。例えば設備を見て研究し、問題点を発掘し、改善案を出し、外注業者と見積もりを重ね、設備の最適化を実現させていく。こうしたプロセスが技術でありその仕事を行うのが技術者です。

一方で技能は、「労働」という言葉に置き換えたほうが分かりやすいでしょう。生産性が向上するよう技術者が改善した設備を使い、製品を作っていくのが技能であり技能労働者です。この場合、技能労働者は設備の問題点や改善案を考える必要はなく、ひたすら機械に向き合って材料をセットしていくことが求められます。

○技術と技能は車の両輪

その場合、技術者は単に改善だけを考えていればいいかと言うと決してそんなことはなく、技能も不可欠です。

例えば鉄線の伸線機の生産性を向上させたい場合、自ら機械を動かすことができて機械の構造や原理を理解していなければ、問題点を見つけ出すことはできません。

また技能労働者も、単に機械を動かしていればいいというわけではありません。不具合を正確に技術者に伝えることも必要ですし、生産性を上げる手法を日々考えなければなりません。それは機械自体の改善のときもありますし、機械にセットする鉄線の種類や順序、前後の工程管理に及ぶこともあります。

つまり技術者は技術的改善を考えることがメインとなり、技能者は機械を稼働させることがメインとなるということです。ウェイトが違っているにすぎません。両者は、技術と技能のどちらか一方習得すればいいというものではなく、技術と技能の双方を理解し獲得することが求められます。その積み重ねで全社的な改善は進んでいくのです。

○製造技術の範囲と役割

すると製造技術が対象とするものは、主に製造機械の改善ということになります。そして、機械に改善に附帯する品質、環境なども関係してきます。

具体的には、次の項目が製造技術の対象となります。代表的な2つ(※)については、次章で解説します。

・月次、日次の生産計画管理

・工程管理(※)

・材料の研究

・仕掛品の管理

・機械本体の改善

・工場内レイアウトの改善

・品質管理(※)

・環境管理

・梱包材の改善

などで、原料を機械に投入してから製品として完成し梱包するまでとなります。

■製造技術に求められるスキル

これら製造にかかわる技術を向上させていくために具体的に必要なのが、いくつものスキルです。製造技術を発揮していくために必要なスキルは、単に知っているだけではなく、自由自在、臨機応変に使いこなせなければなりません。

その中でまずご紹介したいスキルが、改善提案の【QC7つ道具】と言われるものです。

○ QC7つ道具

QCとはQuality Control(品質管理)の略で、本来は品質を向上させるための活動を指す言葉でしたが、今では品質にとどまらず、生産性向上、品質向上、工程改善、環境改善、安全管理など企業活動全般に応用されています。

7つ道具とは、改善を行うために必要な7つの分析手法を指します。

【パレート図、特性要因図、グラフ、ヒストグラム、散布図、管理図、チェックシート】

製造の現状を分析しビジュアル化(見える化)するため、グラフや図式を作成する手法でもあります。目的は、情報の整理、問題点の洗い出しと特定、情報の共有化などです。

企業で行われる「改善発表会」では、この7つ道具を駆使して組み立てた「QCストーリー」が使われます。どの企業にも改善制度があり、定期的に発表会が行われているはずです。「7つ道具」、「QCストーリー」ともに製造業の企業においては必須のスキルですから、マスターしておきましょう。

○ PC操作 エクセル、パワーポイント

パソコン(PC)操作も、製造スキルに必要なことは言うまでもありません。中でも、表計算ソフトのエクセル、プレゼンテーションソフトのパワーポイントは必須です。

エクセルならピボットテーブルが作成できるレベル、パワーポイントなら発表資料のアニメーション動画を自在に作れるレベルには到達しておきたいものです。

○品質管理能力

前章でもあげましたが、品質管理は生産性を向上させる改善過程で必ず関係してくる要素です。生産性が上がっても品質が落ちては何にもなりませんし、顧客からの信頼も失われてしまいます。

生産性を上げながら品質を維持すること、あるいはさらに向上させることは製造業において避けて通れない課題です。

○工程管理能力

工程管理は生産性の向上や品質向上にあまり関係なさそうに見えますが、実は工程の順序は非常に大切です。

例えば鉄線を引き延ばしていく工程では、円柱形の中心に小さい穴の空いた「ダイス」という工具を使用します。そこで、あるロットの仕上がりが2.0mm指定500本で、次のロットが2.2mm指定500本だった場合、これらを連続して製造することは正しいでしょうか。

ダイスの直径は0.1mm以下から30mmぐらいまで0.1mm程度の刻みで数多くあります。サイズの違いはわずかですから、作業者の段取りも楽に思えます。

しかし、答は「NO!」です。

なぜなら、先に製造した2.0mmが伸線後のラックに残っていたら、それが次の2.2mmに混じってしまう恐れがあります。人の目で0.2mmの違いを見分けることは非常に困難です。

この場合、2つ目のロットサイズを25mmなどとすれば、混入を一瞬で見つけることができます。

これは極端な例で、多くの製造業でサイズ変更は合理的なマニュアルができています。要は、工程の順序は品質や生産性にも関係してくるということです。

○コミュニケーション能力など

最後は、人と人とのかかわりに関する能力です。チームにおいて製造スキルを十分に発揮するためには、人とかかわる能力すなわちコミュニケーション能力が欠かせません。またものごとを順序よく考えていく論理的思考力も大切です。

他には、協調性、向上心、リーダーシップ、臨機応変な柔軟性のある思考力など、組織内で一つの目標に向かって進んでいくための能力、資質が必要です。

これらを獲得するための近道は、《組織の中で、自分は今、何を求められているか、何を重視して行動すべきか》を絶えず考える訓練をすることです。

また、「直感」が意外に問題の本質に直結していることもあります。自分の感性を信じることも必要でしょう。

■製造業界の求人に注目するポイント

製造業で人材を募集する場合、スキルが関わってくるのは中途採用の場合です。

例えば製造業がピンポイントで人材を募集する場合は、必要とされるスキルが求人票に記載されていることがあります。例えば「品質管理の管理経験者」や「生産管理経験5年以上」などで、この場合は経験者のみが応募してきますから、企業側は選考が楽です。

それに対して、幅広く人材を採用し、入社後に育成する場合もあります。この場合は人物本位の選考となりますから、これから製造業でスキルを身につけたい人にとっては狙い目です。

もちろんその場合には、コミュニケーション能力や論理的思考力が試されますから、それに備えた対策をしていかねばなりません。ただし、あまり深く考える必要はありません。面接においては自己の人間性を素直に表現し、「ものづくりが好き」だということを熱意をもってアピールすれば、道は開けてくるでしょう。

●まとめ

製造の技術およびそこで必要とされるスキルについて解説しました。

製造スキルの代表と言えるのは「QC7つ道具」と呼ばれる分析手法で、これはQ(品質)のみならず生産性向上改善や工程管理にも幅広く使えるスキルです。是非マスターしましょう。

その次に必要なのはPCスキルです。中程度以上のPCスキル、知識は身につけておきたいものです。

最後は人としての特性です。チームワークの中で同じ目標に向かって進んでいくためには、人とのコミュニケーション能力などは欠かせません。 まだまだ日本における「ものづくり」は産業の中心です。是非、製造業に身を置いて、自らの改善結果が生産性や品質に大きく貢献する醍醐味を味わっていただきたいと思います。